自民党の派閥のパーティー券を巡る事件。「安倍派幹部の議員7人」の刑事責任を追及できるかが最大の争点でしたが、特捜部は立件を見送りました。
元検事・元衆議院議員は一連の事件をどうみたのか。国際人道プラットフォーム・菅野志桜里弁護士に、株式会社Shireruが聞きました。
ーー元検察官であり、元衆議院議員。それぞれの立場を経験された菅野さんからみて、現在の「政治家と検察」の関係はどう思われますか?
安倍政権の時とは違い「検察が政治家に忖度をしている」、「証拠があって起訴ができるのにそれを闇に葬り去る」といった関係ではないことは、推測ですが見て取れます。
ーーどのような部分から見て取れるのでしょうか?
「検察官の定年延長問題」は、検察人事に介入していこうという政府の意思の表れであったことは間違いないと感じています。
どうして法を曲げてまで検察人事を政府の思い通りにしたいのかと言えば、やはり検察に政治の影響を及ぼしたいということが一番の目的。安倍政権の時は実際に政府の意向に沿った検察人事にしようとしたわけですし、森友加計問題では役人に嘘を迫り、とにかく起訴させない、そういうことをやってましたよね。
安倍政権が終わって菅政権になり、岸田首相になってからは少なくとも、そういう兆候というのは今のところほとんど見られません。大きな違いだと思います。
ーー自民党の派閥のパーティー券をめぐる問題。安倍派議員7人が不起訴になった一番の理由は何でしょうか。
今回の問題には、二つの異なる「共謀」があります。議員個人が不記載を会計責任者と共謀したのかという問題と、派閥のキックバックシステム「不記載」の再開について会計責任者と共謀したのかという問題です。
逮捕された池田氏は、おそらく会計責任者との共謀を立証できる証拠があって、しかも多額だった。一方、「派閥」のキックバックシステム不記載について、会計責任者と議員の間でやりとりした証拠が取れるかというと難しい。捜査当初からハードルは高かったと思います。
ーー「個人」ではなく「派閥」だから証拠が得づらいと。
検察官でない方からすると「7人もいるのに何で1人も起訴できないの?」といった感覚になると思うんですけれども、逆に7人もいるという印象です。
人数が多いと言っていることが違ったり、口裏合わせをされてしまったり。登場人物が多い犯罪は、むしろ証拠で特定していくのが難しい。今回も、そういったことが起きたのかもしれないとは推測できます。
ーーでは捜査に着手したこと自体が素晴らしい?
政治資金不記載の犯罪は主語が「会計責任者」なんです。政治資金規正法では会計責任者しか本来罪に問えないのですが、議員が共犯者として指示をしてたりとか、承諾をしてたりとかいうことがあれば、そこで初めて議員を起訴できるという法律です。共犯者として議員を罪に取ることが難しい法体系になっていると思います。
そのような法体系にも関わらず、パーティー券問題は少なくとも捜査を開始している。安倍政権時代の人事介入問題などとは異なります。この後に及んで、最後に何か忖度して「起訴できるものを起訴しない」という状況ではないとみています。
ーー法を改正するならば、どのような形が良いとお考えですか
私は証拠がないのに検察が立件する方が怖いと思っています。やはり法律に則った、構成要件に見合った証拠があるからこそ検察は起訴する権限があるわけなので。
どういう形の法改正がベストかまだ断言はできないけれども、選択肢としては政治資金報告書に責任を持つ主体として会計責任者だけではなく、政治家自身の署名を要求するというのは一つありますよね。
ーー今後は検察審査会に申し立てが行われるとみられています(※取材は先月19日)。この後の流れはどのようになるのでしょうか。
起訴相当が2回続ければ続けば強制起訴になります。そうでなくても、検察の再捜査により共謀の決め手となる新証拠が出てくれば、検察側から改めて起訴するという状況もありえます。ただ、2022年からすでに内偵が始まって相当これまでに捜査を尽くしてきたことを考えると可能性は低いのではないでしょうか。
だからこそ「立法府への投げかけとしての今回の不起訴」といった面もあるんじゃないかという気がしています。「ギリギリまでやったけどやっぱりこの法律ではここが限界ですよ」と。
起訴しなかった検察を責めるというよりは、それを放置してきた立法者、そして通常国会で政治資金規正法の改正に取り組むことができるのか、それこそが社会へ投げかけるべきことではないかという気はします。
(聞き手:鈴木菜摘)
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