かねてより弊社では全国に存在する「記者クラブ」について調査しており、このたび大規模調査の第一弾として「自治体記者クラブの活用率の変化」を都道府県および市区町村1788自治体へアンケートしました。
その結果、全国約3割の自治体に記者クラブがあることが判明し、このうち「この5年間でクラブを利用する記者が減っている」と感じる自治体が42,8%に上ることがわかりました。
調査概要
・調査機関:株式会社Shireru(山田みかん、高森泉美)
・期間:2024年5月14日〜同年9月30日
・調査対象:全国の都道府県および市区町村 1788 自治体
・調査方法:
①各自治体の「広報担当部署のメールアドレス」を収集
②収集したメールアドレスに対し、アンケートの Google フォームを送付
③WEBでの回答が難しい場合は別途 PDF か郵送にて回答をもらう
・回答数:WEB 706 件、メール・郵送38件、回答拒否:36件、 合計 780件
・回答率:43.6%
・設問:
1.今回の調査データは研究や記事作成に使用する予定です。自治体名を公表しても良いですか?
2.都道府県を教えてください
3.市区町村を教えてください(都道府県庁の場合は「庁」と記入ください)
4.自治体内に「記者クラブ」はありますか?
5.記者クラブに「“常に”記者が1人以上」滞在していますか?※平日9〜17時に記者が席にいるなど、ご担当者様の印象で構いません。
6.先の質問で「いない」と回答された方にお聞きします。常にではないものの、記者が1人以上滞在することがあれば、その頻度を教えてください。※平日9〜17時に記者が席にいるなど、ご担当者様の印象で構いません。(週2~3日/週1日/月1日/見かけたことはほとんどない)
7.記者クラブに加盟する社に対し「水道光熱費」や「電話料」を徴収していますか?
8.記者クラブ担当の事務員(会計年度職員)等を配置していますか?
9.記者クラブ担当事務員含め、記者クラブ維持のためにかかっている行政負担の費用は総額でいくらですか?※およそで構いません、記者クラブのない自治体は「記者クラブがない」と記載ください
10.5年前と比べて、記者クラブに滞在する記者が減っていると感じますか。
11.「報道資料」や「プレスリリース」をどこに配布していますか?(記者クラブがあり、加盟社に手渡ししている/記者クラブがあり加盟者にFAXしている/近隣の市区町村にある記者クラブに配布している/リリース配信サービス(@press、PRTIMESなど)を使っている/プレスリリースを作っていない)
12.記者クラブには報道機関の「行政監視」の意味と同時に、自治体の「情報発信」の役割も担っていますが、現状を鑑みてどのような課題が生じていると思われますか。記者クラブがない場合も、それゆえの課題感についてお答えください。
・その他:回答する自治体職員へ向けて、冒頭には以下を記載
「記者クラブ」は報道機関が一丸となって行政機関の情報にアクセスを訴える場所であると同時に、行政 が情報を発信する場としても利用されてきました。
しかしながら近年、マスコミの人手不足や経営難もあり 記者クラブの利用が活発ではなくなっている地域があると伺っております。
そこで実際に記者クラブの活用率が下がっているのかどうか、また「報道」と「広報」がせめぎあう記者ク ラブの活用率が変化するとどのような課題が発生するのか、「行政側から見た記者クラブの現状」を知りたいと今回の調査に至りました。ぜひご協力いただけますと幸いです。
「全国の自治体記者クラブに関する調査」の結果要旨
冒頭でも触れた通り、全国の約3割の自治体に記者クラブがあるとみられる結果になりました。
一方で、都道府県庁や県庁所在地を除く大半の自治体で記者クラブの活用率が低く、記者クラブに職員を配置している自治体でさえ「記者を見かけたことがほとんどない」という状況が明るみに。
また「この5年間で記者クラブの利用率が減っている」と感じる自治体は約4割にもおよび、調査した自治体のうち半数近くが記者クラブの現状に何かしらの課題を持っていることも判明しました。
記者クラブに感じる課題について自由に回答を求めたところ「マスコミの弱体化」を指摘する声が多数あがりました。
自治体職員側も記者クラブをただの情報発信の場として捉えておらず「行政の監視機能」があることを理解しており、地域メディアの衰退によって民主主義に影響を及ぼすのではと不安を抱く様子が伺えました。
本調査は、代表の山田みかんが「記者クラブのない自治体の情報発信」について興味を持ったことからスタートしました。
弊社では、地方の過疎化に記者クラブの有無や活用率が関係しているのではないかという仮説を立て調査にあたっています。
今後も記者クラブ加盟者側や、記者クラブに加盟していないWEBメディアなど様々なステークホルダーに向けて多角的な調査に取り組んでまいります。
記者クラブとは
日本新聞協会によれば、記者クラブとは『公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織」』です。
こと日本では『情報開示に消極的な公的機関に対して、記者クラブという形で結集して公開を迫ってきた歴史』があり、日本の報道界では『言論・報道の自由を求め』この“記者クラブ”という制度を一世紀ほどの時間をかけて培ってきました。
記者クラブには報道側・公的機関側、大きく2つの役割があるとされます。
①報道機関:公的機関等への継続取材を通じ、国民の知る権利に応える
②公的機関:国民への情報開示義務と説明責任を果たす
記者クラブは報道機関が一丸となって行政機関の情報にアクセスを訴える場所であると同時に、行政が情報を発信する場としても利用されています。
日本新聞協会は『情報を迅速・的確に報道するためのワーキングルームとして公的機関が記者室を設置することは、行政上の責務である』とし、常時利用可能な記者室の存在が公権力の行使をチェックし、秘匿された情報を発掘していくためには欠かせないと訴えています。
参考:日本新聞協会HP
調査結果詳細
①自治体内に「記者クラブ」があるのは約 3 割
「自治体に記者クラブはありますか?」の問いに対し、217自治体(回答した780自治体のうち27.8%)が「記者クラブがある」と回答しました。
全国の自治体をくまなく確認したわけではありませんが、国内の自治体のうち 3 割程度に記者クラブが存在していると想定されます。
また「記者クラブがある」のは比較的都市部および人口が多い自治体であり、過疎地域や人口が少ない地域には記者クラブがほとんどないことが分かりました。
なかには複数自治体で記者クラブを構成している地域もありました。
②平日日中に記者がいる記者クラブは約 4分の1
『記者クラブに「“常に”記者が1人以上」滞在しているますか(※平日 9~17 時に記者が席にいるなど、担当者様の印象で回答)』の問いに対し、記者クラブがある217自治体のうち55自治体(記者クラブがある自治体のうちの25.3%)が「記者が滞在している」と回答しました。
平日常に記者がいると回答した自治体の多くが「都道府県庁」や「都道府県庁所在地」でした。
また都道府県庁や都道府県庁所在地でなくとも「鈴鹿サーキット」がある三重県鈴鹿市や、「倉敷美観地区」で有名な岡山県倉敷市、工業都市として全国でも名高い福岡県北九州市には常に記者が滞在していました。
「自治体名の公表が不可」であるとの回答が多いため公表できる自治体が一部に限られますが、政令指定都市に限らず著名な観光都市ならびに経済活動が活発な市区町村の記者クラブには記者が常時滞在していることも分かりました。
③記者クラブがあるものの一部では「ほぼ記者がいない」が常態化
記者の滞在頻度を問うたところ、記者クラブがある217自治体のうち29自治体(記者クラブがある自治体のうちの12.4%)が「記者を見かけたことはほとんどない」と回答しました。
また「月に1日は記者がいる」と回答した26自治体と合わせると55自治体(25.3%)、実に 4 分の 1 の記者クラブで記者がほぼいない状態であることが分かりました。
一方で、冒頭に記した通り記者クラブは有事の際など記者がスクラムを組んで取材交渉する場合に効力を発揮する場でもあり、常時記者が滞在する必要はないとも考えられます。
④5 年前と比べて「記者が減った」と感じる自治体が 4 割
記者の出入りについても問うたところ、記者クラブがある217自治体のうち「5年前と比べて滞在する記者が減った」と感じているのは93自治体と記者クラブがある自治体の42.8%に及びました。
肌感覚での回答とはいえ、5 年で半数近くの自治体において記者の出入りが減っている現状は、マスコミの情報収集速度が遅くなること、地方の情報が吸い上げられなくなること、すなわち地方の情報発信力の低下を意味しているのではないでしょうか。
⑤クラブに会計年度職員を配置するが、記者が来ない自治体も
記者クラブがある217自治体のうち、受付などの業務のために会計年度職員を配置している自治体が68ありました(記者クラブがある自治体のうちの31.3%に当たる)。
このうち1自治体では「記者を見かけたことがほとんどない」という状況にありました。また「月に1日」程度しか記者がこない自治体も6件ありました。
⑥記者クラブ担当職員の人件費やクラブの維持費に年額平均1,787,642円
上記の「記者クラブに配置された会計年度職員」のための人件費や、記者クラブの維持費(光熱費、電話料など)として平均して年額1,787,642円が自治体の負担となっていることも明らかになりました。
負担額か少なかったのは14自治体で0円。負担額が最も多かったのは関東地方の自治体で760万円でした。
負担額の差が大きくなったのは会計年度職員の雇用有無によるところが大きいとみられます。
しかし職員が「記者室内で市の別の業務に対応している」ケースもあり、純粋に記者クラブの業務に費用が発生しているとは言えない実態があります。
費用を0円とした自治体は「クラブ維持にかかる費用はない」としました。
一方で、記者クラブの場所代を「年間440,000円」と費用換算した自治体もありました。
コワーキング施設や、レンタルスペース事業などが広がる中で、当然の権利主張にも思えます。
⑦記者クラブ加盟社から費用を負担してもらっているのは49自治体
記者クラブにかかる維持費をクラブに加盟するマスコミが支払うケースはないのでしょうか。
調査では49自治体が記者クラブの費用を加盟するマスコミから徴収し、そこから水道光熱費や電話代、FAX通信費などを支払っていることも分かりました。
記者クラブがある部屋の分だけ光熱費を計算することが難しく「光熱費は役所が負担し、通信費を加盟社に支払ってもらっている」といった自治体も目立ちました。
記者クラブ加盟社であるマスコミから全く費用を徴収していないのは168自治体で、自治体が維持費を負担する記者クラブが多数を占めました。
日本新聞協会の説明の通り、公的機関が記者クラブを設置することは責務との認識をもとに運営されているものと思われます。
⑧自治体プレスリリース(報道資料)にまつわるあれこれ
調査に協力いただいた780自治体のうち、「プレスリリースを作成していない」とした自治体は71自治体(回答した全自治体の9%)でした。
本アンケートにより「記者クラブというものを初めて知った」という回答も1件ありました。
民間のリリース配信サービスを利用しているのは61自治体で、回答した全自治体の7%でした。
プレスリリースの送付方法について、記者クラブのない189自治体が「近隣の市区町村にある記者クラブに配布している」としました。
近隣自治体の記者クラブへの持ち込みについては「リリースするために近隣の記者クラブ所在自治体まで移動するコストが発生している」といった意見がありました。
記者クラブがないことによる、費用面のデメリットの一つとみられます。
⑨記者クラブの現状に関する各自治体職員の課題感
現状の記者クラブについての課題感を自由回答で問うたところ383自治体(回答した自治体の49.1%)から、何かしらの課題を感じているといった趣旨の回答がありました。
特に多かったのが「マスコミの弱体化」を指摘する意見で、63自治体が回答しました。弱体化の理由として「複数エリアの取材を掛け持ちする記者が増え、取材頻度が減った」とする自治体が多く、他に「マスコミの人手不足」をあげる声もありました。
弱体化により「若手記者のレベルが下がった」との指摘も寄せられました。
さらに「記者クラブの形骸化」を挙げる声や「SNSやネットによる情報発信への移行」、「ペーパーレス化」など現行の記者クラブに変化を望む声が29自治体からあがりました。
記者クラブのない12自治体からは「情報発信のタイムラグ」が指摘されました。
これは、プレスリリースをマスコミに配布するために近隣自治体へ向かうなどして生じる時間が、記者クラブのある自治体に比べてリアルタイムな発信の妨げになっているという内容でした。
<以下、自由回答より一部抜粋> ※一部()で内容を補完しています
●小さな町の情報は取り上げられる頻度が少なくなったと感じる
●地方自治体のリリースに対応できないほど、報道機関自体が人手不足であると感じる。
●報道機関の人員が不足している。広報担当者と記者が顔を合わせる機会が減り、お互い満足のいく報道にならないことが多いと感じる。
●一記者の滞在可能時間は減っており、「行政監視」という意味が薄れているように感じる
●報道機関によっては、連絡棚のプレスを月一くらしか取りにきてくれない。
●加入報道機関への情報周知はできるが、未加入の報道機関への情報提供が難しいと感じる。
●(マスコミの弱体化で)自治体自身が情報発信の主体になる必要があるが、いまだ報道機関並の情報発信は難しいのが課題。
●記者クラブに加入していなくても、市からの情報が得られるため、記者クラブが形骸化している。
●ネットニュースなど情報発信媒体が多様化しているため、これまでの情報発信が最適な手段かどうかについては疑問がある。
とはいえ、地方ではまだ従来の報道機関(新聞・テレビ)による情報発信が有効、また災害時の報道機関のはたす役割は大きいと思われるため、広報の目指すべき方向性がはっきりしない。
●メール等でペーパーレスの情報共有を進めたいが先方(マスコミ)の事務がFAXを必要としているため、移行できずにいる。
●常駐していない報道機関にはEメールで情報を伝えているが、温度感は伝えることができない
●地方行政担当であっても、全国的・国政的な事案に係る取材活動の割合が多くなってきていると思われ、地元独自の事案の取材が少なく感じられる。
限られた地方での記者リソースを活用する部分で難しい面もあると思うが、地元の魅力や地元で活躍する人や企業などにもっと焦点を当てた取材を行っていただき、行政と一緒に地元を盛り上げていただきたい。
今後の展望について
弊社では、本調査を皮切りに「地方の情報がどのように取り扱われているか」について調査を続けてまいります。
今回入手した回答をクロス分析し、記者が減ったと感じている自治体の取材露出数の変化などを調べる予定です。
また記者クラブを利用するマスコミ側の意識調査や、 YouTubeなどで発信するメディアが「地域情報を取り上げた割合」についても現在調査を行なっています。
株式会社Shireru
※本調査の結果についてご紹介いただける場合や詳細のお問い合わせは、以下問い合わせフォームまでご連絡くださいますようお願い申し上げます。
株式会社Shireru
お問い合わせ:https://shireru.jp/#contact
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