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米国一流エンジニアが語る「高専本科卒学位」の必要性 「#高専の学位問題」を考える 

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奈良高専を卒業し、米国アップルでエンジニアとして働く中村真治さん(47)。

国内大手企業でのプログラミング経験やソフトウェア開発の技術が買われ、ヘッドハンティングされる形で現在の職に辿り着きました。

高い実力で様々な企業から求められる一方、「高専本科卒業生に“学位”が授与されない」ことを理由に苦労した経験も。

国際化が進む現代において、高専をどのように位置付けるべきか。

必要な支援について聞きました。




自律心育む「高専」の教育

兵庫県で育った中村さんは、奈良高専の近くに親族が暮らしていることから進学を決意。

「学びたいものがあって入学した訳ではなかった」ものの、数学などの専門的な授業が「とても面白かった」と言います。

今も思い出すのが寮での生活。

夜10時には就寝しないといけない決まりがありましたが、そこは若い学生。

「談話室のカーペットの下に秘密基地を作り、見回りをする寮母さんの目をかいくぐって深夜2時まで遊ぶこともありました」と懐かしそうに話します。

学びにも遊びにも真剣だった学生時代。

普通科の高校とは違い、入学時から「研究」と「技術取得」に取り組む高専で、現状の課題を捉える目と、それに対応できるだけの自律心を育みました。

技術力が買われ企業から企業へ

大手企業への就職口が多いのも高専の特徴。

中村さんも例に漏れず、卒業後は国内大手電機グループ企業へ就職しました。

無線に関するソフトウェア開発やアプリのプログラミングに携わり9年が経った頃、誘いを受けて外資系の日本法人へ転職。

そこで実力を認められた中村さんは、米国サンディエゴにある本社から直接採用され、働く拠点を日本からアメリカへと移すことになりました。

「突然のリストラにも対応できるように…」と進学を決意

当初は「数年で帰国しよう」と考えていた中村さんですが、「非常にやりがいのある仕事」と感じるようになり永住を決意。

しかし、アメリカで働き続けるには一つ不安要素がありました。リストラです。

突然の解雇宣告があるなど、リストラが当たり前のアメリカ。

「ヘッドハンティング」で転職した中村さんですが、もし解雇されることになれば、次の就職活動では履歴書を提出して面接に挑まなければなりません。

「自分は高専卒。アメリカではそもそも高専が認知されておらず、短期大学と似ていると説明しても『学位は?』と聞かれてしまう。自分の学歴を証明することが非常に難しいと感じた」。

さらに、“学位”があれば永住権の取得にも優位に働きます。

そこで永住、ひいては解雇という不測の事態に対応できるよう、名門カリフォルニア州立大学サンディエゴ校(UCSD)のマスターコースへ進学することにしました。

難しい「高専卒の証明」

「短大卒でも受け入れている」と聞き大学院の門戸を叩いた中村さんでしたが、ここからが苦難の連続でした。

大学院の事務局から「学士相当の能力を有している証明」を求められたのです。

フーリエ解析等大学レベルの知識があるか確認されたうえ、他の入学者は受講する必要のない数学の事前夏期講座に参加してテストで点数を取る必要もありました。

何度も事務局を訪れ口頭での説明も行った結果、ようやく「少なくとも学士相当の能力及び経験がある」と理解され、進学が決まりました。

修士という「学位」がもたらした変化

進学後は働きながら修士の獲得へ向け学業に取り組みました。

平日は朝から夕方まで働き、夕方6時から夜11時まで大学で勉強。

休日も課題に取り組む日々を送りました。

当時、私生活では子どもが産まれたばかり。

「大変だった。妻には負担をかけたと思う。本当に感謝している」と当時を振り返ります。

そうして修士の学位を手にした中村さん。

今度はApple社からお声がかかり、修士号を取ったことで転職もスムーズに進みました。

この転職活動について、中村さんは自身をこう分析します。

「もし学位が曖昧な高専卒の状態で一般応募したとしても書類審査ではねられていたと思う。一人の募集に対して数十人、数百人の応募がある中で面接まで辿り着けるのはほんの一握り。書類選考では実績や出身大学、学位でスクリーニングがかかることが多いので」

さらに、学位は気持ちの面でも中村さんに変化をもたらしました。

「アメリカでは他人の出身大学を気にする人はほとんどいないが、自分はどこかで“学位がない”という気持ちがあった。修士という学士を取得したことで、自分に自信がついたように思う」。

中村さんのほかにも「学位の壁」につまずく高専OBたち

中村さんだけではありません。

全国の国公私立高専の現役生・卒業生で構成されるコミュニティ組織「ヒューマンネットワーク高専」に所属する55人に調査したところ、約4割が「学位に関して困ったことがある」と回答。

国内でも「高専」という学校システムそのものが認知されておらず社内の総務担当者とのやりとりに苦労したケースや、学位がないことを理由に短大卒よりも給与が低いといったケースがありました。

高専の学びは「アメリカでも通用する」


アメリカの大学院で学んだ中村さん。

クラス30人のうち28人が大学卒でしたが「自分が劣っているという感覚は全くなかった」といい、「講義の内容も高専で学んだことがベースになっていた。高専本科卒は、アソシエイトディグリー(短大学士)に充分相当すると思う」と話します。

現在シリコンバレーに暮らす中村さんの元には、今後のキャリアについて相談したいと高専生が訪れることも。そんな後輩たちを見て、感じることがありました。

「僕が高専生だった頃よりも、海外に目を向ける学生が多くなっていると思う。彼らが海外に来た時に学位の話でつまずいて欲しくない」

技術力と思考の柔軟性から注目を集めている「高専」。

飛躍する彼らを後押しするためにも、学位について見直すべき時がきているのではないでしょうか。

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