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海外KOSEN卒業生には「学位」が授与されていた!なぜ日本の高専生には学位が与えられないのか?タイ高専創設関係者に聞いた
2026年5月31日

目次
2024年、日本の高等専門学校=高専の制度を取り入れたタイの高専で初の卒業生が誕生。卒業の証として、短期大学卒と同等の学位(Associate Degree)が授与されました。
しかし日本国内の高専では5年制のコースを卒業しても「学位」は授与されず、国内でしか通用しない「称号」が与えられるのみです。
日本独自の意義ある教育システムとしてタイだけでなく、モンゴルやベトナムでも誕生しているKOSEN。いずれも卒業時に学位が授与されます。日本発の教育機関のはずなのに、なぜ国内の学生には学位が授与できないのか。
タイ高専創設のキーマンに、タイで学位が授与できた理由を聞きました。
そもそも、なぜタイにKOSENができたの?
約50年前に日本がASEAN(東南アジア諸国連合)と結んだ友好協力関係。日本企業は安い労働力と生産拠点を求めて、ASEAN各国へ進出しました。なかでも親日的なタイには製造業を中心に日系企業約6000社が進出。現地の経済を潤してきたのです。
しかし近年、タイでも少子高齢化がすすみ働き手不足に。さらには給与水準も急上昇していることから、自動車メーカーなど日本の大手企業の撤退が相次いでいます。
そんななか、海外企業の撤退を食い止めGDPを向上させたいタイ政府は「タイランド4.0」という新政策を発表。「安い労働力」ではなく「開発研究」にも携われる知的技術者を育成することで企業の撤退を減らし、研究への出資も獲得したいと考えるように。
どのように知識と技術を兼ね備えた人材を育成するか。そこで政府関係者の目に留まったのが日本の教育システム「高専」でした。将来的な投資の意味もあり、10年間に必要なタイ政府投資額の6割程度を日本から円借款で 約100億円借り入れ、2019年5月に国内にKOSENが誕生しました。
タイの教育制度とキャリアパス
タイでは中学を卒業後、大学進学を目指して進学するケースと、スキルを身につける職業訓練校へ行くケース、大きく2つの進路があります。
しかし格差社会の色が強いタイ。ホワイトカラーとして働くには、4年制大学を卒業し学士(Bachelor’s Degree)を保有する必要があります。しかし大学では、学術的な基礎と実務的な技術を合わせて学ぶことが難しいという課題がありました。一方で、職業訓練校の進路を選択すると技術は身についても「開発研究」といった知識が身に付きづらいため、ハイキャリアを築くことはほぼ不可能とされます。
そこで、大学の研究、職業訓練校の技術をハイブリットで学ぶことができるKOSENを「大学」の附属機関に位置付けて設立したのです。
「学位」は当たり前のはずが…日本への転入で想定外の結果に
立ち上げ時に国立高専機構のタイ高専プロジェクト国際総括参事として関わった高嶋 孝明さん。
タイのKOSENが「王立大学の附属機関」と位置付けられていたこと、タイでは学位授与権を含めて多くの権限が政府から大学に移譲されていることから、卒業時に準学士(Associate Degree)が授与されることは設立当初から既定路線でした。
「タイKOSENでは5年間の履修内容と、帰属する王立大学における準学士(Associate Degree)の条件を見比べながら、学位を独自に授与できるんです。」
しかし、思わぬ落とし穴がありました。
優秀な4名の学生が3年次に日本の高専へ転入。すると、日本の高専を卒業したという扱いになり、日本の高専は「称号」を授与しているため、学生らが学位を取得できなかったのです。まさに日本の高専の制度が招いた青天の霹靂でした。
タイでの課題は「準学士での就職」
タイKOSENを卒業すれば取得可能な準学士(Associate Degree)の学位。高嶋さんは、別の困難がタイではあったといいます。
「学位は日本と違って取得することができます。むしろ課題だったのは『準学士(Associate Degree)での就職』でした。」
タイでは、エンジニア職の場合、『学士(Bachelor’s Degree)』を求人の条件としており、準学士では応募すらできません。応募できるのはテクニシャンやオペレータ職など、将来のキャリアが限定されます。
「とにかく『門前払いしないでください』と言ってバンコクの日系企業を一社一社回りました。タイの日本大使館と日本商工会議所も一緒に働きかけてくれました。日系企業は高専生の実力を理解してくれていて、タイ現地の社長やマネジメントに高専卒業生の方も多く、期待を寄せてくださいました。その結果、リコー、デンソー、日立、ホンダ、日本航空、クボタ、コマツといった名だたる日系の大手企業が第1期生の採用に踏み切ってくれたんです。」
高専生の実力を知ってもらうため、インターンシップの受け入れや、卒業研究のテーマの提供、メンターとしての伴走も現地企業に依頼した高嶋さん。こうした活動を通じて、企業の日本人マネジメント層だけでなく、現場のタイ人にもタイKOSEN生の高い実力を知ってもらうことができ、給与水準を学士取得者と同等にしてくれたケースもあったといいます。
学位授与の”その先”がすでに議論されているタイKOSEN
就職できたとしても、さらに別の壁が待ち受けていました。採用されたタイ企業や現地の日系企業にいるタイ人から「なぜ自分より若い準学士の社員と給与が同じなのか」と不満や突き上げが起きるリスクです。
入社後、一緒に働くタイ人のメンバーから受け入れてもらうためにも、将来のリーダーや管理職となって活躍するためにも、学士の学位は必須でした。
そこで、タイKOSENと高嶋さんが取り組んだのが、卒業後のキャリアパスの設計です。卒業生が働きながらタイKOSENの専攻科に在籍し、実務経験も単位の一部として認定することで、2年ほどで学士を取得できる仕組みを整えました。
こうした動きによって「卒業生に奨学金を提供するから、是非採用したい」という企業が現れたほか、同様の意向を示す企業も複数ありました。
ハイキャリアで活躍するために必要な学士の学位以外にも、学生を悩ますのが「金銭」の問題です。
タイKOSENは、全員が奨学金によって自己負担ゼロで授業を受けられる「政府からのフルスカラシップ」として始まりました。しかし設立から10年の奨学金期間のうちすでに5年が経過。2026年度の入学生からは奨学金がなくなっており、授業料や寮費の自己負担が生じています。応募者数や倍率への影響も避けられないなか、タイ政府自身の予算確保や日本側への追加支援の要請、学生数の見直しが懸念されるなど、関係者の模索が続いています。
それでも高嶋さんは、こうした状況がいずれ必ず日本の高専にもプラスになると確信しています。
「KOSENは日本が誇る教育システムとして海外輸出されたものです。タイKOSEN第一期生期生の活躍が認められれば、それがKOSENひいては高専への信頼につながります。
また、タイKOSENの立上げ支援のため派遣された高専教員が帰国したり、優秀なタイKOSEN生が日本の高専に転入したり、彼らの人柄に触れた人や学生が国内にいます。
この状況は、日本の高専の国際的な価値を示す土台になり、『学位 』をめぐる議論も活発になるはずです」。
モンゴルでは法律を整備し、高専卒業生に準学士および学士を授与できる制度をすでに確立しています。日本の高専機構自身が「海外において高専は大学と同等」と標榜しながら、国内の卒業生に学位を出せない現状。その矛盾を、海外KOSENの歩みが静かに、しかし確実に照らし出しています。
